トップ
ブログ

AIがピッチ資料を"別物"に変える——Y Combinatorの原則を組み込んだスライド生成の裏側

2026/2/22

AIがピッチ資料を"別物"に変える——Y Combinatorの原則を組み込んだスライド生成の裏側

はじめに

起業家にとって、ピッチ資料の作成は避けて通れない壁です。

ビジネスモデルは頭の中にある。課題も解決策もわかっている。でも、それを投資家の心に刺さるスライドに落とし込むのが難しい。特に起業家初心者にとっては、何を・どの順番で・どう見せればいいかの判断基準がありません。

自分たちは Purpom Media LabBMG(ビジネスモデルジェネレーター) という SaaS を開発しています。BMG は「生成 AI とビジネスモデルキャンバスを共創する」ツールで、ビジネスモデルキャンバス・リーンキャンバス・ペルソナ・カスタマージャーニー・市場調査・検証タスクといった新規事業開発に必要な要素を AI と一緒に作っていけるプラットフォームです。

その中で「ユーザーが入力したビジネスモデル情報から、AIがピッチ資料を自動生成する」機能を作りました。

この記事では、AIに良いピッチ資料を生成させるために自分たちが整理した「良いピッチの原則」と、それをどうプロンプトに落とし込んだかを共有します。

誰に向けた記事か

  • 新規事業の立ち上げを検討している経営層・事業責任者

  • 社内ピッチや投資家向けプレゼンの質を上げたい経営企画担当者

  • AIを活用した業務効率化に関心のある意思決定者

参考にしたノウハウ

良いピッチ資料の原則を整理するにあたり、主に以下を参考にしました。

Y Combinator — Kevin Hale「How to Design a Better Pitch Deck」

YC のパートナー Kevin Hale は、Demo Day で 500 人以上の前でピッチする起業家に向けて、3つの原則を提唱しています。

Make it legible, simple, and obvious.

(読みやすく、シンプルに、一目でわかるように)

Demo Day は 2 分 30 秒。投資家はすぐに気が散る。一瞬で理解できなければ、メールをチェックし始める。だからこそ、スライドは読める・シンプル・明快でなければならない。

東京大学 FoundX — 馬田隆明「3分ピッチテンプレート」

FoundX の馬田氏が公開しているテンプレートは、日本のスタートアップ・ピッチコンテスト(UTokyo 500k 等)で広く使われています。構成は以下の 7 セクション。

1. Problem — 課題
2. Solution — ソリューション
3. Market Size — 市場規模
4. Traction — トラクション
5. Unique Insight — 秘密
6. Business Model — ビジネスモデル
7. Team — チーム

この構成の特徴は、Unique Insight(秘密)が明示的にセクションとして組み込まれていること。「あなただけが知っている重要な真実」を伝えるセクションで、FoundX のピッチでは最も重要な要素の一つです。

整理した「良いピッチの原則」

参考資料を読み込んだ上で、AIに指示するための原則として以下の 3 つに整理しました。

原則 1: 読みやすさ

  • 全ての要素は大きく、太く、明快に

  • 1行の箇条書きは40文字以内を推奨(短いほど良い)

  • 専門用語は最小限に、使う場合は平易な言葉で補足

Kevin Hale は「会場の一番後ろの席からでも読めること」を基準にしています。オンラインのスライドビューアで見る場合でも、この原則は変わりません。文字が小さい、密度が高いスライドは、読まれる前にスキップされます。

原則 2: シンプルさ

  • 1スライド = 1メッセージ

  • 箇条書きは1スライドあたり最大4個(3個が理想)

  • 投資家に覚えてほしいポイントは全体で5〜7個に絞る

  • 情報が多い場合はスライドを分割する(詰め込むより分割)

「1 スライド = 1 メッセージ」はピッチ資料の最も重要なルールです。初心者が陥りがちなのは、1 枚に複数のアイデアを詰め込むこと。「課題と解決策を 1 枚にまとめたい」「収益モデルを 3 つ並べたい」— これらは全て NG です。

Kevin Hale は「simple の語源は "single fold"(一つの折り目)」と説明しています。1 スライドに含めるのは、1 つの概念だけ。

原則 3: 明快さ

  • タイトル = 結論(トピック名ではなく、メッセージを書く)

  • 悪い例: 「売上推移」「市場規模」「競合分析」

  • 良い例: 「売上は月50%成長中」「1兆円市場にまだ参入余地あり」

  • 各スライドに「So What?(だから何?)」の答えを含める

  • 不要な装飾、注釈、但し書きは一切入れない

これが最も AIに教えるのが難しかった原則です。

AIは「市場規模」「競合分析」のようなトピック名をタイトルにしがちです。しかし良いピッチでは、タイトルそのものが結論になっています。聴衆はタイトルだけ読んでも、そのスライドのメッセージが伝わる。本文はその根拠を示すだけ。

ストーリーラインの設計

3 原則に加えて重要なのが、スライド全体を貫くストーリーラインです。

FoundX のテンプレートと YC のアドバイスを統合して、以下のナラティブを設計しました。

この顧客にはこの課題がある
  → 我々はこう解決する
    → この市場にはこれだけの機会がある
      → 競合に対してこの優位性を持つ
        → あなたがまだ知らない真実がある
          → 既にこのような検証を行っている
            → 一緒にやりましょう

各スライドが次のスライドへの「橋渡し」になることが重要です。課題を見せたら、聴衆は自然と「で、どう解決するの?」と思う。その期待に応える形で次のスライドが来る。この流れが途切れると、聴衆の集中が切れます。

スライド構成

この設計を、具体的なスライド構成に落とし込みました。

#

セクション

内容

枚数

0

表紙

タイトルと日付

1

1

エレベータピッチ

30秒で伝わる事業要約

1

2

課題

誰のどんな課題か

1-2

3

ソリューション

課題をどう解決するか

1-2

4

ビジネスモデル

どうお金を稼ぐか

1-2

5

市場規模

市場はどれくらい大きいか

1-2

6

競合優位性

なぜ競合に勝てるか

1-2

6b

秘密

あなただけが知っている真実

1

7

顧客

ターゲットは誰か

1-2

8

トラクション

既に何を検証したか

1-2

8b

検証計画

今後何を検証するか

1-2

9

クロージング

行動喚起

1

FoundX のテンプレートとの違いは以下の点です。

エレベータピッチを冒頭に追加した。 FoundX テンプレートは課題から始まりますが、投資家にとってまず「何をやっている会社なのか」の全体像がないと、課題の文脈が掴めません。最初の 1 枚で事業の全体像を示し、そこから詳細に入る構成にしました。

収益モデルを独立させた。 ビジネスモデルキャンバスは包括的すぎて 1 枚に収まりません。ピッチで最も重要なのは「どうやってお金を稼ぐか」なので、メインの収益モデル 1 つだけをシンプルに伝えるスライドを必ず含めるようにしました。

クロージングは「まとめ」ではなく「行動喚起」にした。 ピッチの目的は情報伝達ではなく、聴衆に行動してもらうこと。「まとめ」で終わるピッチは、聴衆に「ふーん」で終わられます。「次のステップとして、パイロット導入先を募集しています」のように、具体的なアクションを求めて終わる構成にしました。

「秘密」セクションの重要性

FoundX テンプレートで最も特徴的なのが Unique Insight(秘密) セクションです。

Peter Thiel の「Zero to One」でも語られている概念で、「賛成する人がほとんどいない、大切な真実はなにか?」 という問いに答えるセクションです。

具体的には以下のような内容が該当します。

  • 顧客ヒアリングで発見した意外な課題

  • 業界の人が気づいていない不満や非効率

  • 独自の技術やデータの組み合わせによる予想以上の価値

  • 「なぜ今ならできるのか(Why Now)」の答え

このセクションは、競合優位性の後に配置しました。競合との比較を見せた後に「実は、まだ誰も気づいていないことがある」と伝えることで、投資家の関心を引きつけるストーリーになります。

プロンプトへの落とし込み方

これらの原則をAIに指示するにあたり、いくつかの工夫をしました。

良い例・悪い例を必ず添える

- タイトル = 結論
  - 悪い例: 「売上推移」「市場規模」「競合分析」
  - 良い例: 「売上は月50%成長中」「1兆円市場にまだ参入余地あり」

原則を抽象的に書くだけでは AI は従いません。具体的な良い例と悪い例のペアを示すことで、出力の品質が大きく変わりました。

数値制約を明示する

- 箇条書きは各60文字以内、1スライドあたり最大4個(3個が理想)
- title は全角40文字以内
- subhead は全角50文字以内(最大2行)

「シンプルに」「短く」という指示は曖昧すぎます。文字数の上限を数値で指定することで、AI の出力が安定しました。

セクションごとに推奨パターンを指定する

AI に「良い感じのスライドを作って」と言っても、毎回 content(箇条書き)パターンで埋め尽くされます。セクションごとに推奨するスライドパターンを指定することで、視覚的なバリエーションが生まれました。

課題 → bulletCards(課題の列挙)または compare(現状 vs 理想)
ソリューション → process(解決プロセス)または headerCards(機能紹介)
市場規模 → kpi(数値表示)
競合優位性 → compare(自社 vs 競合)
秘密 → quote(インパクトある一文)

禁止事項を明示する

- 文末の句点「。」禁止(体言止め推奨)
- 禁止記号: ■、→ を含めない
- content パターンは全体の30%以下に制限
- 同一パターンの連続使用を避ける

AI は放っておくと同じパターンを繰り返し使います。「content パターンは 30% 以下」「同一パターンの連続禁止」のような制約を入れることで、初めてバリエーションが出ました。

「データがなければスキップ」を徹底する

- データがないセクションは丸ごとスキップすること(空のスライドを生成しない)

これは AI 生成で最も重要なルールです。ユーザーがまだ市場調査をしていないのに「市場規模: 推定 1,000 億円」のようなハルシネーションが入ると、ピッチ資料としての信頼性がゼロになります。

データがないセクションは存在しない方がマシ。この原則を明確に指示することで、入力データの充実度に応じた適切な枚数のスライドが生成されるようになりました。

できたもの

BMG の「資料出力」機能で実際に生成されたピッチ資料です。

@speakerdeck

ユーザーが入力した以下の情報から、20 枚前後のピッチ資料を自動生成します。

  • ビジネスモデルキャンバス(9 要素)

  • ペルソナ

  • リーンキャンバス

  • 市場調査データ

  • 検証タスクの結果

  • カスタマージャーニー

  • ユニークインサイト(秘密)

入力データがない部分はスキップされるので、ビジネスモデルキャンバスだけ埋まっている段階でも、その範囲で最適な資料が生成されます。

まとめ

AIに良いピッチ資料を生成させるために整理した原則を振り返ります。

3 原則

  1. 読みやすさ — 大きく、太く、明快に。40 文字以内

  2. シンプルさ — 1 スライド = 1 メッセージ。箇条書きは 3 個が理想

  3. 明快さ — タイトル = 結論。「So What?」の答えを含める

ストーリーライン

  • 課題 → 解決 → 市場 → 競合 → 秘密 → 検証 → 行動喚起

  • 各スライドは次への橋渡し

プロンプト設計のポイント

  • 良い例・悪い例のペアを必ず添える

  • 数値制約を明示する

  • セクションごとに推奨パターンを指定する

  • 禁止事項を明確にする

  • データがなければスキップを徹底する

これらの原則は、AIに指示するためだけでなく、人間がピッチ資料を作る際のチェックリストとしても使えます。自分のスライドが「読みやすいか」「1 枚 1 メッセージか」「タイトルが結論になっているか」を確認するだけで、資料の品質は大きく変わるはずです。

参考

Kohei Aoki

CEO / Engineer

Contact

まずは、
状況を整理しませんか?

課題が曖昧でも、
検証の進め方に迷っていても、
方向性が定まっていなくても大丈夫です。
PMLは、本質探索と検証設計から、
あなたの挑戦を論理的に前に進めます。

お問い合わせ内容

必須